「全部やる」エンジニア 〜 AIを手に入れ全知全能となったリチェルカのFDE 〜

淺見 将希 淺見 将希 · 12 min read
「全部やる」エンジニア 〜 AIを手に入れ全知全能となったリチェルカのFDE 〜
目次

はじめに

こんにちは。リチェルカでFDE兼テックブログ編集長をしている淺見です。

僕はMac MiniとMacBook Proの2台で、Claude CodeやCodexを使って常時3つくらいの業務を並行して進めています。あるプロジェクトでは業務整理を進めながら、別のプロジェクトでは新規プロダクトのPRDを作成する。さらにもう1つのプロジェクトでは、お客様からいただいたフィードバックをもとにUI/UXを改善する。本当になんでもやるエンジニアという状況です。

FDEが並行して進める業務

リチェルカのFDE

FDE(Forward Deployed Engineer)は、アメリカのPalantir Technologies社が生み出した職種です。

従来のソフトウェアエンジニアが「ひとつの機能を多くの顧客向けに作る」のに対し、FDEは「顧客の現場に入り込み、業務課題を深く理解したうえで、自社プラットフォームを活用した解決策を設計・実装する」。そして現場で得た知見をプロダクト開発チームにフィードバックし、製品そのものの進化にも貢献する。

リチェルカでもこの考え方を取り入れ、FDEとして活動しています。ありがたいことにリチェルカはシリーズAのスタートアップにも関わらず、大手企業様に多く導入いただけていることもあり、向き合う課題が複雑で難易度の高いものばかりです。1社1社丁寧に向き合いお客様の課題を解決しながらプロダクトの価値最大化にも貢献するのがリチェルカにおけるFDEの役割です。

FDEの働き方については共同創業者の野田も「全部やる」エンジニアという記事で詳しく書いています。この記事では、僕の実体験をもとにお客様の業務課題にFDEとして挑んだお話をします。

顧客の現場に深く入り込み課題解決

このお客様は、請求書を読み取る業務に課題があり、リチェルカを選んでいただきました。数十ページの請求書に大量の明細行が並び、商品名の表記揺れも激しく、フォーマットもバラバラ。各営業担当者が手作業で処理しており、1人あたり月8〜24時間ほどを費やしていました。営業担当者だけでも数百名いらっしゃるので、これだけでもかなりのインパクトがあります。さらに請求書の受け取りが担当者ごとに分散しており、受け取り漏れによる支払漏れのリスクもありました。

FDEとしてまず取り組んだのは、請求書処理の前後にある業務を含めた全体像の把握です。オフィスへ訪問したり、リチェルカのオフィスにお越しいただき、2〜3時間膝を突き合わせて業務ヒアリングを数回に渡って行いました。

プロジェクト開始時は入力業務を効率化したいという文脈しか見えていませんでした。しかしヒアリングを繰り返す中で、商品コードへの変換が属人的な業務になっていることや、請求書の受け取りフロー自体にも課題が見えてきました。

ヒアリングで見えた課題の構造

こうした業務理解をもとに、請求書の受け取りから入力処理までを1つの組織に集約し、AI-OCR読み取りとマスタ変換で自動化するToBeを設計しました。

AsIs/ToBe 業務フロー比較

精度改善では「読み取り精度」と「マスタ変換精度」という2つの課題に分解して取り組みました。読み取りは、難易度の高い帳票ではあったものの約98%まで向上。マスタ変換はマスタをどう持つかなど整備し、約20%から約90%まで改善しました。

マスタ変換 精度改善の推移

マスタ変換の精度改善の過程では、エンジニアリングだけでなくデータのクレンジングにも取り組みました。マスタデータには表記揺れや重複、古いデータが混在しており、そのままではどれだけロジックを改善しても変換精度が上がらない状態でした。数千件のマスタデータを1件ずつ確認し、表記を正規化していく。地味で泥臭い作業ですが、お客様の課題を解決するためには避けて通れません。エンジニアの領域に閉じず、課題解決に必要なことはなんでもやる。それがFDEの仕事です。

プロダクトへのフィードバック

高い精度で読み取ることができ導入の目標達成はしているものの、もっと精度は高めたいという中で「今のプロダクトではできないこと」もたくさん見えてきました。見えた課題を片っ端から開発チームにフィードバックしていたのですが、ここでCA(Client Adviser)の武田の一言にハッとさせられました。「それ、本当に導入段階で全部必要なの?」と。

武田は別の記事でも書いていますが、「Whyを磨いて小さく出す」ことを徹底しています。僕はお客様の現場で課題が見えるたびに「これも必要、あれも必要」とスコープを広げてしまっていました。AIを手にするとなんでもすぐにできる気がして、つい全部やりたくなる。でも開発リソースは有限です。全知全能どころか、消化しきれないアイデアに溺れているだけでした。

そこから、お客様と改めて課題の優先順位を見直しました。結果的に、お客様にとってはミニマムな構成でクイックスタートでき、リチェルカとしても段階的に機能をアップデートしていける整理になりました。最初から全部盛りにするよりも、お互いにとって良い進め方でした。

FDEのフィードバックサイクル

おわりに

結果、精度高く読み取れる状態を実現し、プロダクトの改善のスコープとスケジュールも整理ができて、プロジェクトは成功しました。

プロジェクトが終わる頃には、お客様の社内システムや用語を覚え、得意先名や請求書の特徴も全て把握したため、数年間一緒にプロジェクトやっている人のような安定感があるとご評価いただきました。

また、今回の請求書処理の自動化プロジェクトは、FDEとしての動き方を体現したプロジェクトでした。

  • 業務の前後を含めた全体像を何度もヒアリングして把握する
  • 読み取り精度約98%、マスタ変換精度約20%→約90%まで、今あるプロダクトでできることを最大限活用し地道に改善する
  • マスタデータのクレンジングなど、エンジニアリングの枠を超えた泥臭い作業もやりきる
  • 検証で見えたプロダクトの課題を、業務背景とセットで開発チームにフィードバックする
  • データの持ち方を整理し、顧客システムとの連携をする

一方で、自分にとって多くの学びもありました。

僕はB2Bのビジネスが初めてで、お客様と密にコミュニケーションを取りながらプロジェクトを進めたことがありませんでした。 なので、お客様が欲しいと言っている機能は作りたくなってしまっていました。

しかし、それはお客様の言葉の裏にある背景や本当に必要な理由を深掘りできていないということでした。 本当に必要なものを見極めるいい経験ができました。

FDEの仕事はプロダクトを提供して終わりではなく、お客様の業務に入り込んで課題を解きほぐし、双方の事業成長を見据えて全体最適を一緒に実現する。 難しい業務ではありますが、意義とやりがいに溢れる仕事だと思っています。

今回はRECERQA Scanという既存のプロダクトをお客様にご提案・導入いただき、プロダクトにフィードバックをするというプロジェクトのお話でした。 次回は、お客様の要件をもとに高速でプロトタイプを開発し導入いただいたプロジェクトの話をお届けします。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。